ま。
前回のようなこと書いてみたところで、たぶん彼女には

うざったてー。

の一言ではねられちゃうんだろうけどね。
とすべてを台無しにしておいて、妄想の続き。
天羽探偵が推理を披露し終えたとこから。

「どうよ?」
と天羽志緒は?シネマ?を一本抜いて言った。
「大人の悪知恵もなかなかのもんでしょ?」
「ん〜、まぁまぁかな」
「まぁまぁかよ」

複数の足音が階段を駆け上って来る。
中村警部に率いられた警官隊の到着だった。

「ま、どちらにせよ、これで追いかけっこはおしまい。あとひとつ…… 正直言って動機って点で腑に落ちない部分もあるのだけど、ま、それは私の仕事じゃないしね。マスコミが適当にこじつけてくれるでしょうよ」
「かもね」

それはごく自然なしぐさだったと、その場に居合わせた誰もが――天羽志緒自身も含めて、口をそろえる。
肩をすくめ、すべての退路を絶たれた今の状況を正確に理解したように、?ジェーン?は警官隊へむけて歩を進めた。

それがあまりに素直な動作だったので、誰もが失念した。
彼女が?ジェーン・ザ・リパー?であることを。

「!?」

一瞬の出来事だったという。
それはあくまで自然に。
丁々発止の駆け引きを繰りかえした相手に、記念の握手を求めるかのように。

天羽志緒の眼前を通りすぎようとした?ジェーン?が、ふと足をとめ、隠し持っていたもう一本のカッターナイフを一閃したのは。

天羽志緒がとっさに一歩飛びのいたのも一瞬遅かった。
?シネマ?をつまんだ右手の甲を、一文字に朱色の線が走った。

「はいはいはい、そう殺気めかないで」

?ジェーン?は、
たった今自分のしたことを理解しているのかいないのか、
どこまでも無邪気に、
自分へ襲い掛かろうかという警察官たちを手で制した。

天羽志緒は、
右手甲から血をしたたらせ、
――現場に居合わせたものによれば、それは彼女がかつて見せたことがなく、またその後もついぞお目にかかれないものだったというのだが、
両目を見開き、驚愕の表情で幼い加害者を凝視していた。

「天羽センセにせめて一傷くれたかっただけ。ホントにそれだけだから」

?ジェーン?はそう言って、カッターナイフを投げ捨てた。


むぅん。
まさにこれをこそ書きたかったシーンなのだけどダメだなぁ。

要はね、普通なら橋川は、?恐るべき子供?のしでかした犯罪を?名探偵?が暴いてみせる、そんなシーンを妄想して満足できたと思うのですよ。
だけど、やっぱり前回書いたとおり、橋川は例の事件の加害者側の人間だったからね。

名探偵側の完勝にはとうとう出来なかった。

天羽志緒の右手の甲には、今もうっすらと傷痕が残っている。
天気のぐずついた時など、何本かの指先にしびれの出ることもあるという。
それは紛れもなく、かの連続殺人鬼、ジェーン・ザ・リパー――切り裂きジェーンの置き土産なのだった。

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