「貴闘力を惜しむ」

2002年9月20日
またひとり、希有な力人(ちからびと)が土俵を去る。
貴乃花の現役続行がほぼ確定、胸をなでおろした昨日の今日で、もうひとりの「貴」の引退の報に接することになった。
貴闘力である。
力士としては恵まれない体躯で現役19年は、標準タイプの力士が40才近くまで取ったのと同じか、それ以上の値打ちがあるだろう。
それを支えたのは、四股名の通りの闘志と、熱心な研究心だった。

一回目のしきりから、「立つか?」と思わせる気合いの充実は、その後の力士には観られない。
制限時間前だろうと、うっかり目の離せない力士だった。
舞の海の奇襲を封じるべく、二字口までさがって仕切ったこともあった。
まったく前代未聞のことで、意表をつかれたし、「その手があったか」と膝を打ったものだ。

何より、曙キラーの印象が強い。
同部屋の貴乃花・若乃花に貴重な援護射撃を続けたし、曙にしてみれば顔も観たくないいやな相手だったに違いない。
明日対戦ともなれば、どちらが横綱か判らないほどだった。
「一発目をかわせさえすれば、曙の突っ張りは怖くない」
と全幕内力士に気付かせた功績は大だろう。
あるいは貴闘力がいなかったら、曙の最盛期ももっと長かったかもしれない。

史上最スローでの幕内最高優勝もあったが、小錦と琴の若という巨漢力士ふたりを相手に水入りの大一番を取っているのが特筆もの。
水入り自体めっきりへり、平成以降で二度体験の力士は、他に琴の若だけ。
誰もが大器と期待する体躯に恵まれながら、攻め口の遅さで「ミスター1分」などと揶揄された琴の若には、恥じなければいけない記録だが、貴闘力のそれは勝負への執念のあかしである。

大鵬親方の娘婿となり、大鵬部屋の相続が実質内定していながら、幕下陥落の決定的になるこの時まで土俵にあがり続けた彼は、誰より相撲を愛した希有なファイターだった。

ありがとう、そしてお疲れさま。

本当に本当にお疲れさまでした。

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