彼女は微妙に不機嫌だった。
言葉であらわさなくても、空気で判る。
とりあえず、何かあったのかと聞いてみた。

「コクられた」と言う。
この流行語をあまり好きじゃないが、要するに、学校で下級生から好きだと言われたということだろう。

前々から、その何某くんの自分へ向ける視線の意味には、彼女自身気付いていたものらしい。
「見られてる、ってピンと来た」と彼女は言う。
「ドキドキした」のだそうだ。
彼女の言葉をそのまま引けば、「その場で、やらせろ! って言われたら、許しちゃったかもしれない」くらいに。

そんな何某くんから愛の告白をされて、何で不機嫌になるのか、よく判らない。

「女の子ってね……」と彼女は言った。
「どんな愛撫より、他愛もない一言が嬉しい時だってあるんだよ」

そんなものなのか。
多分そういうものなんだろう、と頭の片隅で納得しておく。

「行為より言葉が欲しい時だってあるんだから!」
だんだん彼女の語調は感情的になっていく。

「もっとちゃんと、ボクをつなぎとめておいてよ。そうでなきゃ…… 自分でもどうしようもなく、グラグラしちゃう時だってあるんだからね?」

「ボクは橋川さんのものでしょう?」

彼女が何を言いたいのか判らなかったので、素直にそう言った。

彼女は呆れたような表情になり、その後、結局二人はいつも通りに愛し合った。

ふと、彼女は束縛されたいのかな、と思いついた。
手近にあった油性のマジックペンで、彼女の胸のあたりに自分の名前を書いた。
彼女は最初くすぐったそうに、それから涙が出る位大声で、笑った。


……という夢を見た訳よ。
「夢オチかい!」

一部、記憶のあいまいなところなど、橋川のシュミで脚色してあったりします。

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